今日ご紹介するのは「在宅における末期認知症の肺炎の診療と緩和ケアの指針」です。
超高齢社会が到来している先進国では、70歳以上の高齢者に深刻な健康問題と緩和ケアのニーズが急増しています。その中でも、認知症患者の増加が特に顕著であり、その緩和ケアのニーズも増大しています。認知症高齢者が肺炎に罹患する場合、その治療と緩和ケアは特に重要となります。
認知症高齢者の肺炎は、その重篤さと合併症のリスクが高く、治療や緩和ケアの選択肢も限られています。また、認知症によるコミュニケーションの困難さや、多疾患併存状態にあることが治療やケアを複雑化させています。
そこで、認知症高齢者の肺炎と緩和ケアに関する最新の指針が2022年に作成されました。これは、認知症高齢者の肺炎時の診療や治療方針、緩和ケアの提供について、より具体的なアプローチを示すものです。
国立長寿医療センターウェブサイトへのリンク
https://www.ncgg.go.jp/hospital/overview/organization/zaitaku/news/documents/makkininnchi.pdf
具体的にはどんなことが書いているんですの?
この指針には次の8つの項目について記載されています。 この中で診断の部分について、少し紹介させてください。
Ⅰ 在宅や高齢者施設など病院外環境における重度認知症高齢者の肺炎の診断
Ⅱ 重度から末期認知症の肺炎の予後予測
Ⅲ 重度から末期認知症の肺炎の呼吸困難の評価法
Ⅳ 末期認知症の肺炎への抗菌薬の投与
Ⅴ 重度から末期認知症の肺炎の輸液
Ⅵ 末期認知症の肺炎の呼吸困難へのオピオイドの使用
Ⅶ 末期認知症の肺炎に対しての鎮静
Ⅷ 末期認知症の肺炎時および看取り期の気道クリアランス法(排痰法)
在宅や高齢者施設など病院外環境における 重度認知症高齢者の肺炎の診断
自宅や高齢者施設では、病院のように容易に胸部X線を撮影することは困難です。
この指針では、重度認知症高齢者の肺炎のスクリーニングとして McGeer Criteria が推奨されています。
McGeer Criteria は、居宅や高齢者施設における肺炎あるいは下気道感染の医師の診断の補助としてだけではなく、看護師など医師以外の医療職が肺炎を疑う際の判断基準としても活用できます。
※ただし、McGeer Criteria は肺炎あるいは下気道感染のスクリーニング基準として用いるにとどめ、最終的な診断と介入は、類似の症状を引き起こす他疾患(例: 心不全、間質性肺疾患、肺結核、胸膜炎、COVID-19 感染症等)との鑑別診断を、 その環境下で可能な限り実施した上で行うことが望ましいと記されています。
- Stone ND,Ashraf MS,Calder J,et al: SHEA/CDC position paper Surveillance Definitions of Infections in LongTerm Care Facilities: Revisiting the McGeer Criteria. Infect Control Hosp EpidemiolOct 33(10):965-77,2012. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22961014/
こういった基準を施設看護師や訪問看護師と共有できていると、より判断の精度が高まりそうなのです!
注意点として、これはスクリーニングツールであり、絶対的な診断基準ではないということです。 高齢な方の場合、発熱しないこともあります。指針にも記載されていますが、、McGeer Criteria の感染症の判断基準の発熱と胸痛以外の 5 つの呼吸器基準(咳嗽、喀痰、SpO2 低下(<94%)、頻呼吸、聴診異常)は認知症高齢者の肺炎時に観察される頻度が高いため、日頃から観察をすることが重要です。
今後、認知症・肺炎を患う方は増え続けることが予想されています。
地域の在宅医療を担う立場として、在宅における誤嚥性肺炎の診療・緩和ケアにも引き続き取り組んでまいります。
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