(登場人物は全て仮名です)
自宅で療養する患者さんとご家族のお宅に、訪問診療の補助業務で初めて自宅に伺ったのは今から12年前。
患者さんのご自宅にはその人の暮らし・人生・好きなもの・思い出が詰まっていて、初めて伺った日からこれまでの間、患者さんとご家族から「その人らしい暮らし・生き方」について学ぶ日々です。
12歳のススムくん。
悪性疾患で闘病しながら中学校に通っていました。
夢は「お医者さんになること」。
医師になり、同じように病気と闘う患者さんと救いたいと思ったそうです。
病気のため、顔貌の変化があっても、頭痛が治まらなくても、行ける日は学校に通いました。
夢を持つこと、夢を諦めないことを教えてもらいました。
30歳のヒトミさん。
目が大きく、笑顔が素敵で、趣味はカフェや雑貨屋さん巡り。
自室は雑貨屋さんかと錯覚するくらい素敵なインテリアが飾られていました。
外出するのが難しくなったけど「夏の思い出が作りたい」という希望があり、スタッフと共に花火大会を開催。
今、この瞬間を精一杯楽しむことの大切さを知りました。
55歳のケンジさん。
阪神淡路大震災がきっかけで、元同僚のアケミさんと再会し結婚。
デニムが大好きで、一点ものの洋服を好んで着用するおしゃれなケンジさん。
旅立ちの時もお気に入りのデニムで最後の最後まで「ケンジスタイル」でした。
奥さんのアケミさんが「震災は辛い経験だったけど、主人と再会できた。私達にとっては新たな未来の始まりになりました。だから主人の死も悲しいことだけではないと思います。」と話してくれたことが忘れられません。
72歳のジュンコさん。
大好きな友人の優しいママ。
わたしが中学生のころから怒ったところを見たことがありません。
「うちの子と大人になっても変わらず仲良くしてくれてママは嬉しい。あなたたちの幸せな姿を上から見てるからね。」と私たちの未来の幸せを祈ってくれました。
人生の幕引きが迫る中、子どもの未来を案じる親心に触れました。
100歳のスエコさん。
お肉とオロナミンCが大好きで、負けん気の強いお寺の女傑。
最後まで自分の好きなものを食べて逝きました。
食べることが好きな人は長生きです。
生きることは食べること、身を持って示してくれました。
最後に。
私の父が亡くなる前日のこと。
私が風邪気味で、「お父さんにうつしたら大変だから今日は帰る」と言うと「そうか、気をつけろよ。お大事に。ありがとう。」と私を気遣い、感謝の言葉をくれました。
今思い出しても涙が溢れます。
父の愛と強さと優しさがその言葉に詰まっていました。
これからも診療を通じて、患者さんご家族から学び続けます。
看護師